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名古屋高等裁判所 昭和61年(う)442号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月及び罰金一〇万円に処する。

右の罰金を完納することができないときは、金二五〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人永富史子が作成した控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官平田定男が作成した答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用するが、控訴趣意の要旨は、原判決の量刑が重過ぎて不当であるというのである。

所論に対する検討に先き立ち、職権をもつて調査するに、原判決が本件公訴事実のうち業務上過失傷害事件について「(罪となるべき事実)」として認定している内容は別紙のとおりであるところ、原判決挙示の関係各証拠ことに、被告人の司法警察員に対する供述調書、被告人の検察官に対する昭和六一年七月四日付供述調書、司法警察員作成の実況見分調書及び甲山花子の司法巡査に対する供述調書によると、以下の各事実、すなわち、(1)原判示の交差点(以下「本件交差点」という。)は、南方桜本町方面から北方新瑞橋方面に向かう市道名古屋環状線と東方平子橋方面から西方青峰通方面に向かう市道豊田新屋敷線とがほぼ十字形に交差する地点であり、市道名古屋環状線のうち南行車線は幅員10.8メートルで、その西側は中央分離帯に、右南行車線の東側は幅員5.2メートルの歩道(以下「本件歩道」という。)に接していること、(2)原判示の甲山花子(以下「本件被害者」という。)は昭和四七年一二月生の女子中学生であるところ、原判示の日時に車長1.5メートルの婦人用ミニサイクル足踏自転車(以下「被害車両」という。)に乗つて本件歩道内を南方桜本町方面から本件交差点に向かつて北進し、本件交差点の南側出口にある原判示の横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)の東南端、すなわち本件横断歩道の南側側線と本件歩道の西側側線との交点より若干南方の地点において、本件歩道から前記南行車線(以下「南行車線」という。)内に被害車両を乗り入れ、南行車線内で北西方向に向かつて約一五キロメートル毎時の速さで進行中、すなわち、南行車線内を本件横断歩道に向かつて斜め横断(本件歩道の西側側線や被告車両の進行方向に対し約六〇度の角度を保ちつつ横断)している最中、被告人運転の原判示の自動車(以下「被告車両」という。)の車体左側面(左前輪の後ろ)と被害車両の前輪とが衝突したこと、(3)右衝突が原判示の衝突事故(以下「本件事故」という。)に当たるものであるところ、右衝突地点と本件歩道西側側線との垂直距離は5.6メートルであり、また、被告人は被害車両が南行車線の東側側線より垂直距離にして0.8メートル西方の地点にあるとき被害車両の存在とそれが正に前記のとおり斜め横断しつつあることとを初めて発見した(その際被害車両は、原判示のとおり、被告車両の左前方約10.1メートルの地点にあつた。)が、その際車長4.57メートル、車幅1.68メートルの被告車両は約一五キロメートル毎時の速さで南行車線内を南進中であつたため、被告人が右発見後制動操作をしたけれども間に合わず、本件横断歩道の南側側線より多少南方の地点で被告車両の左側面(左前輪の後ろ)が前述のとおり被害車両の前輪に衝突してしまつたのであるが、右発見の時点から右衝突の時点まで被害車両も被告車両も約五メートル内外走行したのであること、(4)本件事故の直前、被告車両は東方平子橋方面から本件交差点を経て南方桜本町方面に向かうべく、本件交差点の信号機が東方からの進入車両に対し青色を現示したのに従つて本件交差点に進入し、左折合図をしつつ本件横断歩道内にその車体一部を乗り入れた際、被告人が前記のとおり被害車両の存在に気付いたものであり、一方被害車両は本件歩道の西側側線に沿つて設置されているガードレールの切れ目(本件横断歩道の東側入口より若干南方に、右入口とは別個に設けられているもので、歩道から車道に向けて緩やかな傾斜が付けられ、したがつて、段差も歩道縁石もない状態になつている部分)から前記のとおり、南行車線内に進入して走行中、本件被害者が被告車両の存在に気付いたのは本件事故の直前であり、そのときには同女としては何らなすすべがなかつたものであること、(5)本件事故当時、その現場の道路(南行車線)は平たんなコンクリート舗装道路をなし、路面は乾燥していたことの各事実が明らかである。

以上の事実関係を背景にして本件事故についての被告人の過失を検討するに、まず、かかる背景的事実のある本件事故についての被告人の過失行為、すなわ被害車両の存在や動静に対する確認義務の違反は、被告車両の車体の全部ないし一部が南行車線内に進入した時点以降において存在すると考えるべきか(この場合には、この確認をしていさえすれば本件事故の発生を回避しえたか否かが問題となる。)、それとも、被害車両がまだ本件歩道内にある時点において存在すると考えるべきか(この場合には、被害車両の前述の傾め横断行為に対する予見可能性の存否が問題となる。)ということによつて、過失の成否やその態様に差異が生じることは自明の理である。しかして、判決理由中では被告人のいかなる行為を過失行為として認定判示したのかということが一義的に特定明示されていなければならないことは、判決に理由を付することを要求する趣旨に照らしても、いうまでもないところ、この観点から原判決の前記「(罪となるべき事実)」の記載をみるに、原判決は、単に、被告人が本件横断歩道を通過するに当たり、「前方左右を注視し、右横断歩道の直近を信号に従つて横断する者の有無安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り……左前方横断歩道直近に対する安全確認をしないで……進行した過失により」と判示しただけで、右の「直近」ないし「左前方横断歩道直近」が南行車線内で本件横断歩道より若干南方の地点をさすのか、本件歩道内で本件横断歩道より若干南方の地点をさすのかということは、原判決の記載からこれを読み取ることができないから、原判決がいかなる被告人の行為を過失行為として認定判示したかについても、被害車両の車体の全部ないし一部が南行車線内に進入したとき以降の被害車両の存在及び動静に対する確認不十分をもつて過失行為として認定判示したとも、被害車両がまだ本件歩道内にある段階での被害車両の存在及び動静に対する確認不十分をもつて過失行為として認定判示したとも解されるが、もし前者のごとく解するならば、原判決は、他方で、被害車両に乗車した本件被害者を被告人は「約10.1メートル左前方に発見し」たと認定判示しており、原判決にいう被告人の右発見時の本件被害者の位置は、前認定の事実に徴すれば、南行車線内でその東側側線より僅か0.8メートル西方の地点であつたと考えられるから、原判決の前記記載によると、一面では被告人は被害車両が南行車線内に進入した直後に被害車両の動静を確認した。すなわち、左前方の南行車線上で本件横断歩道の若干南方における被害車両に対する確認したこととなり、原判決の前記認定判示には前後で矛盾撞着があるといわざるを得ないのみならず、他面被害車両の車体の一部が南行車線内に入つた時点で被害車両を発見した場合、それによつて急拠制動をかけたとしても、前認定にかかわる発見時の被告車両及び被害車両の進行方向や速さ、右発見時以降被告車両及び被害車両が前記衝突地点まで走行した距離、被告車両の衝突箇所などからして、本件事故発生を回避することは不可能であつたかも知れないといわざるをえず、したがつて、この場合には結果回避可能性の存否についての十分な検討がなされるべきであるのに、かかる検討がなされたとうかがうに足る根拠は何ら見当たらない。因みに、被告人が被害車両を発見した時点から本件事故発生までの被告車両の走行距離は、前認定のように五メートル内外であり、約一五キロメートル毎時の速さで走行中の被告車両の運転者たる被告人が被害車両を発見して直ちに制動をかけても被告車両は、これによつて停止するまでの間に、反応時間を約一秒、摩擦係数を約0.65という前提の下で、約5.5メートル走行することとなり、更に、被害車両が本件事故発生の際、前述のとおり、本件歩道の西側側線に対し、したがつて被告車両の進行方向に対し約六〇度の角度を保ちつつ進行していたことと被告車両の車幅とにかんがみると、被告車両は前記衝突地点より手前(北方)約一メートルの地点に車体前端をおいて停止しさえすれば本件事故は回避できたはずである。そして、当審における事実の取調べの結果と前掲実況見分調書とによると、本件事故発生時における衝突地点と被告人が被害車両の存在に気付いたときの被告車両の運転席の位置との間隔が約5.7メートルであつたこと及び被告車両の車体前端とその運転席との間隔が約2.2メートルであつたことが明らかであるから被告車両前端が前記衝突地点より手前(北方)約一メートルの地点で停止するためには、被告人は、被告車両の運転席が前記衝突地点より手前約8.7メートルの地点、換言すれば被告人が前述のとおり被害車両の存在に気付いた地点より約三メートル手前の地点で被害車両の存在に気付いて直ちに制動操作をとりさえすればよく、これにより本件事故の発生はこれを回避しえたはずである。そして、これを被害車両の位置の観点から説明するならば、前掲実況見分調書と当審における事実の取調べの結果からも明らかなように、被告人が実際に被害車両の存在に気付いたとき被害車両のサドルの位置が南行車線内本件歩道の西側側線より垂直に0.8メートル西方に隔たつている地点にあつたこと、被害車両のサドルと被害車両の前端との間隔が約一メートルであつたこと及び被害車両と被告車両とがほぼ等速であつたことに照らし、本件事故の発生を回避するためには、被告人としては被害車両の前端が、本件歩道内で前記南行車線への乗入れ地点より手前、すなわち東南方約1.2メートルの地点にあつたときに被害車両の存在に気付いていなければならないこととなる。

一方被害車両が本件歩道内にあるときにその存在や動静に対する確認をしていなかつたのが本件事故についての被告人の過失行為を構成する旨原判決が認定判示しているとしても、もともと原判決は「横断しようとしている者」ではなく「横断する者の有無安全を確認」すべきであるとしている点で、この確認にいまだ車道に進入しておらず本件歩道を走行中の被害車両に対する確認が含まれるのかは多少疑問があるうえ、本件交差点のような交差点を左折する自動車運転者が本件歩道の如き、左折方向の交差道路左側歩道を対向してくる自転車運転者等をどの範囲において確認し、その動静を注視すべきかについては、後記のように、確認可能性と予見可能性との関係で相当問題があるところ、原判決には右視認が可能であつたことや右予見が主観的にも客観的にも可能であつたことをうかがわせるに足りる被害車両の走行状況や歩道の状況の摘示に欠けるところがあるといわざるを得ない。

以上の検討によつて明らかなとおり、原判決は、原判決は、原判示第二の事実において、被告人のいかなる行為を過失行為として認定判示しているのか一義的に特定明示されていないといわざるを得ず、この意味において原判決には理由の不備があるというべきである。

よつて、控訴趣意(量刑不当の主張)に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三七八条四号前後により原判決(原判示第二の事実と併合罪の関係があるとして併せて一個の刑を言い渡された原判示第一の一、二の事実に関する部分を含む。)を破棄し、当裁判所は更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  公安委員会の自動車運転免許を受けないで、

一  昭和六〇年一二月二二日午前一〇時三七分ころ、愛知県知多市北浜町二番地付近道路において、普通乗用自動車を運転し、

二  昭和六一年四月五日午後一時五〇分ころ、名古屋市南区菊住二丁目一八番一九号付近道路において、普通乗用自動車を運転し、

第二  自動車運転の業務に従事するものであるが、前記第一の二記載の日時、場所で前記普通乗用自動車を運転し、市道豊田新屋敷線路上を本件交差点に向かつて西進し、信号機により交通整理の行われている本件交差点を経て南方桜本町方面に向かうべく、本件交差点で左折しようとし、右信号機が東方からの進入車両に対して現示した青色表示に従い本件交差点に進入し、その後徐々に左旋回しつつ進行し、本件交差点南側出口に設けられている本件横断歩道に向かつて約一五キロメートル毎時の速さで走行していたが、その際本件横断歩道に接する本件歩道には自転車通行帯があり、また本件横断歩道南端から約2.7メートル南方の地点と同約6.6メートル南方の地点との間の本件歩道西側側線は間口3.9メートルにわたつて歩道の縁石がなく、かつその間においてはガードレールが跡切れ、歩道から車道へと緩やかな勾配をなし、歩道と車道との段差はほとんどない状況にあるのであるから、本件歩道上の自転車通行帯を本件交差点に向け北進中の自転車運転者の中には、前記ガードレールの切れ目から南行車線内に進入し、本件横断歩道のすぐ南の地点において南行車線を北西方に向け斜め横断しようとする者もありうるということを自動車運転業務従事者たる被告人としては十分予見することができ、かつ予見していなければならず、また被告車両が本件交差点内に進入した時点以降は本件歩道内におけるかような自転車の存否を十分視認することができる状況にあり、したがつて、被告人としては、かかる自転車の有無、動静に対する確認を十分にしていなければならないという業務上の注意義務があるのにこれを怠り、本件歩道内におけるかかる自転車の有無を十分確認しないまま前記の速さで進行していたという過失により、本件横断歩道の歩行者用信号機の青色信号に従つて甲山花子(昭和四七年一二月二五日生)運転の自転車が前記ガードレールの切れ目から車道上に進入しようとしていることに対する発見が遅れ、右自転車の車体が南行車線内に完全に入つてしまつたときにようやく右自転車の存在に気付いたけれども、そのときには、すでに遅く(右自転車も約一五キロメートル毎時の速さで走行していたのであるからもし、右自転車がもう三メートル位東南方にいた時点で、すなわち右自転車の車体がまだ完全に本件歩道内にある段階で被告人が右自転車の存在に気付いたならば、本件事故はこれを回避することができたはずである。)、自車左側部を右自転車前部に衝突させて右甲山をその場に転倒させ、よつて同人に対し加療約二四日間を要する頭部挫創等の傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(補足説明)

1  訴因について

本件公訴事実のうち原判示第二の事実についての本位的訴因は原判示第二の事実と全く同じであるところ、前記理由不備の判断の際に指摘したことがらは公訴事実の訴因についてもほぼあてはまることであつて、訴因を明確にすることが被告人の防衛上も必要と思料されるけれども、当審で検察官からの訴因変更(予備的訴因の追加)があつたことにかんがみると、本位的訴因において検察官は、被告人の過失行為として被害車両の車体の全部又は一部が南行車線内に入つた時点以降における被害車両の有無、動静に対する確認義務違反を主張しているものと解すべきこととなるが、この本位的訴因については、前述のとおり、右時点以降における確認をいくらしていても本件事故の発生を回避し得なかつたのであるから、これを容れることができず、したがつて、当審で追加された予備的訴因の範囲内で前記のとおり判決した次第である。

2  具体的予見可能性について

前記理由不備の判断(職権判断)の項で判断したところによれば、被告人が本件被害者を発見して直ちに制動をかければ被告車両と被害車両との衝突を回避することができるとするためには、被告人は本件事故の際現に被害車両を発見した地点より約三メートル手前の地点で被害車両を発見する必要があつたことは前述のとおりであり、そうすると、そのとき被害車両は、本件歩道内で前記ガードレールの切れ目から三メートル未満の地点を走行中であつたことになるところ、そのとき被害車両が前記ガードレールの切れ目から南行車線内に進入して前述のとおり斜め横断を開始するかも知れないということを主観的にも客観的にも予見することが可能であつたかが一応問題となりうるであろうが、この点は予見可能であつたことが当裁判所の前記罪となるべき事実の認定に照らして明らかなところである。

(法令の適用)

被告人の判示第一の一、二の各所為はいずれも昭和六一年法律第六三号附則三項による改正前の道路交通法一一八条一項一号、道路交通法六四条に該当するので所定刑中いずれも懲役刑を選択し、判示第二の所為は刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので所定刑中罰金刑を選択するが、以上の三個の罪は刑法四五条前段の併合罪を構成するから、同法四八条一項により判示第一の一、二の各罪の懲役と判示第二の罪の罰金とを併科することとし、懲役については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の二の罪の刑に併合罪の加重をした刑期の範囲内で、罰金については判示第二の罪の所定罰金額の範囲内で、被告人を懲役四月及び罰金一〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、後記の請状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文により被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、昭和六〇年一二月二二日と昭和六一年四月五日との二回にわたる無免許運転及び後者の無免許運転の際の人身交通事故の事犯であるが、右二回の無免許運転は、友人宅へ遊びに行くためと女友達を送つて行くためとに運転したというもので、その動機は同情に値しないうえ、被告人は、免許の効力停止処分を受けていた間に無免許運転をして昭和五九年六月に罰金刑に処せられ、次いで同年七月二七日交通違反点数累積により普通及び二輪自動車運転免許を取り消されたのに、その後運転免許を再取得することなく、普通乗用自動車(養父名義)を保有(使用)し続けて無免許運転を反復累行し、同年一一月に犯した速度違反を伴う無免許運転等のかどで昭和六〇年七月罰金七万円に処せられ、同年六月に犯した無免許運転とその際の業務上過失傷害のかどで同年九月罰金一五万円に処せられたのに、これらを自重自戒の契機とせず、いずれも右無免許運転の一環として本件二回の無免許運転(うち一回は業務上過失傷害罪を伴う。)を繰り返したもので、無免許運転の常習性及び交通法規無視の傾向は著しく、被告人の刑責は決して軽視できない。

しかしながら、原審で取り調べられた各証拠及び当審における事実取調べの結果によれば、原判示第二の業務上過失傷害罪については、無免許運転の際惹起したということで厳しい非難に値するものの、過失の態様自体はそれほど悪質ではなく、被害者にも、歩行者用信号が青色であつたとはいえ、前記ガードレールの切れ目から左折してくる車両の有無、動静に全く注意することなく、自転車に乗車したまま車道に進入した点で相当の落度があること、被害者の負つた傷害の程度も比較的軽度で、示談も完了しており、そのため被害感情は宥和していること、被告人は本件各犯行を深く反省し、本件各犯行で用いた普通乗用自動車を既に廃車処分にしたこと、被告人の養父母は被告人に対する従前の安易な監督態勢を反省し、これを改めることを強く表明していること、被告人はこれまで前記の罰金刑に処せられたことはあるが、自由刑に処せられたことは皆無であることなどの酌むべき事情が認められるので、これらの事情にその他被告人が大学在学中であることや被告人の年齢等を併せ参酌すると、業務上過失傷害罪については罰金刑を選択するのが相当であると思料され、また無免許運転罪の懲役刑については、今回に限り被告人に対し在宅更生の機会を与えるのが刑政の目的に適うものと思料される。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本卓 裁判官油田弘佑 裁判官向井千杉)

別紙

被告人は、自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和六一年四月五日午後一時五〇分ころ名古屋市南区菊住二丁目一八番一九号の先の道路において、普通乗用自動車を運転し、信号交差点を青色信号に従つて平子橋方面から桜本町方面に向け時速約一五キロメートルで左折進行し、交差道路の横断歩道を通過するに当たり、前方左右を注視し、右横断歩道及びその直近を信号に従つて横断する者の有無安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、横断歩道上を横断する歩行者がいなかつたことに気を許し、左前方横断歩道直近に対する安全確認をしないで漫然前記速度で進行した過失により、左青色信号に従つて右横断歩道直近を自転車に乗して進行する甲山花子(当時一三年)を約10.1メートル左前方に発見し、急制動の措置を講じたが及ぼず、自車左側部を右甲山花子運転の自転車右前部に衝突させて転倒させ、よつて、同人に加療約二四日間を要する頭部挫創等の傷害を負わせたものである。

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